元曲
金字经·渔隐
马致远
絮飞飘白雪,
鲊香荷叶风,
且向江头作钓翁。
穷,
男儿未济中。
风波梦,
一场幻化中。
翻訳
柳絮は白雪のように舞い、蓮の葉を渡る風には魚の香りが漂う。ひとまず江辺に行き、釣りをする翁になろう。貧しいとしてもよい。男はまだ人生の難所を渡りきっていないのだ。世の風波など夢にすぎず、すべては幻の移ろいの中にある。
解説
この曲は漁隠を歌うが、単純な逃避ではない。柳絮、蓮葉の風、魚の香りという軽やかな景は、功名の世界の騒がしさと対照をなす。「且向江頭作釣翁」の「且」は、完全な断絶ではなく、ひとまず自然の中に身を置くという響きを持つ。「窮」の一字は苦笑にも、自己確認にも聞こえる。しかし「男兒未濟中」とあるように、志が消えたわけではない。結びでは、世の風波を夢と幻化として見る。失意をただ嘆くのではなく、無常の認識へと移しているところに、馬致遠らしい達観がある。
作者紹介
馬致遠は元代を代表する雑劇作家・散曲作家で、字は千里、号は東籬。関漢卿、白朴、鄭光祖とともに「元曲四大家」に数えられ、「曲状元」とも称された。雑劇では『漢宮秋』が有名で、散曲では旅愁、失意、隠逸への憧れを、清疎で味わい深い言葉によって表した。