元曲
阳春曲 · 春景(一)
胡祗遹
几枝红雪墙头杏,
数点青山屋上屏。
一春能得几晴明?
三月景,
宜醉不宜醒。
翻訳
塀の上には、赤い雪のような杏の花が数枝咲き、屋根の上には、青い山が数点、屏風のように見えている。春のうちに、こんな晴れやかな日はどれほどあるだろうか。三月の景色は、酔うのにふさわしく、醒めているには惜しい。
解説
この曲は、三月の晴れた春景を描いた短い小令である。杏の花、青山、晴明な春日という、ごく限られた景物だけで、春の喜びと惜しむ心を表している。 「几枝红雪墙头杏」は、塀の上に咲く杏の花を「紅雪」と表現している。杏の花は雪のように軽く、しかも淡い紅を帯びている。大きな花景色ではなく、数枝だけであるため、かえって清新で親しみやすい。 「数点青山屋上屏」は、視線を遠くへ移す。屋根の上に見える青い山が、まるで自然の屏風のようである。近くには杏花、遠くには青山があり、短い中に空間の奥行きがある。 「一春能得几晴明?」は、この曲の感情の転換である。春は美しいが、晴れた日ばかりではない。風や雨も多く、花もすぐ散る。だからこそ、晴明な一日は貴重なのである。 「三月景,宜醉不宜醒」は、非常に元曲らしい率直な結びである。このような春景の前では、醒めているよりも、酔ってその中に身を委ねたほうがよい。ここでの「酔」は、酒だけでなく、美しい春光に心を浸すことでもある。 この作品の魅力は、軽く明るいところにある。大きな哲理を語らず、ただ春のよい日を見て、それを逃したくないという気持ちを歌っている。
作者紹介
胡祗遹は元代の文学者・政治家で、字は紹開、一説に紹聞、号は紫山。磁州武安の人。元世祖の時代に仕え、翰林応奉文字、太常博士、河東山西道提刑按察副使、済寧路総管、山東西道提刑按察使などを歴任し、清廉で有能な官僚として知られた。著作に『紫山大全集』があり、元代文学や曲壇を研究するうえで重要な資料を残している。散曲は清らかで雅致があり、文人らしい品格と元曲らしい自然な口語感を兼ね備える。明代の朱権はその詞を「秋潭孤月の如し」と評した。