元曲
平湖乐 · 采菱人语隔秋烟
王恽
采菱人语隔秋烟,
波静如横练。
入手风光莫流转,
共留连,
画船一笑春风面。
江山信美,
终非吾土,
问何日是归年?
翻訳
秋の霞を隔てて、菱を採る人々の声が聞こえ、湖の波は静かで、横に敷いた白絹のようである。手に入ったこの美しい風景よ、どうか流れ去らないでほしい。共にしばし留まり、画船の上の女性が、春風のような顔で微笑む。この山河は確かに美しい。しかし、結局ここは私の故郷ではない。いつになれば帰る年となるのだろうか。
解説
この曲は、秋の平湖の美しい景色を描きながら、最後には旅人の望郷の思いへと転じる作品である。前半は明るく美しいが、後半の「終非吾土」によって、景色の意味が大きく変わる。 「采菱人語隔秋煙」は、非常に情趣のある一句である。秋の薄い霞の向こうから、菱を採る人々の声が聞こえてくる。姿ははっきり見えないが、声だけが届く。その距離感が、湖上の静けさと秋の趣を深めている。 「波静如横練」は、湖面の静かさを白絹にたとえる。水は平らで明るく、澄んでいる。人の声の動きと、湖面の静けさが対照をなしている。 「入手風光莫流転,共留連」は、目の前の景色を惜しむ気持ちである。今この美しい風景を手にしているように感じるが、時間はすぐに流れてしまう。だから、しばらく留まりたいと願う。 「画船一笑春風面」は、秋の景色の中に春のような明るさを加える句である。画船の上の女性が微笑むと、その顔は春風のようにやわらかい。秋煙と静波の画面に、人の温かさが加わる。 しかし最後に、「江山信美,終非吾土」となる。これは王粲『登楼賦』の意を踏まえており、土地は確かに美しいが、自分の故郷ではないという意味である。美しい景色であればあるほど、旅人は自分が客であることを強く感じる。 この曲の核心は、美景と望郷の矛盾である。目の前の湖も、船も、人の笑顔も美しい。しかし、それでもここは帰るべき場所ではない。そのため最後の「いつ帰れるのか」という問いが、静かに深く響く。
作者紹介
王惲は元代の文学者・政治家で、字は仲謀、号は秋澗。衛州汲県の人。元世祖・元成宗の時代に仕え、翰林修撰、監察御史、翰林学士などを歴任した。人柄は方正で、政務に勤め、文章と学問にもすぐれていた。著作に『秋澗先生大全文集』がある。詩文・詞曲に才能を示し、元初の重要な文人散曲家の一人である。その散曲は文人的な雅致と元曲らしい自然な口語感を兼ね備え、清麗な景色の中に旅情や人生感慨を織り込むことに長けている。