詩経
郑风·叔于田
佚名
叔于田,巷无居人。
岂无居人?不如叔也,洵美且仁。
叔于狩,巷无饮酒。
岂无饮酒?不如叔也,洵美且好。
叔适野,巷无服马。
岂无服马?不如叔也,洵美且武。
翻訳
叔が田へ狩りに出かけると、巷には人がいないように思われる。本当に人がいないのだろうか。いや、人はいる。ただ叔には及ばない。叔はまことに美しく、仁のある人である。 叔が狩りに出かけると、巷には酒を飲む人もいないように思われる。本当に酒を飲む人がいないのだろうか。いや、人はいる。ただ叔には及ばない。叔はまことに美しく、好ましい人である。 叔が野へ出かけると、巷には馬を整える人もいないように思われる。本当に馬を扱う人がいないのだろうか。いや、人はいる。ただ叔には及ばない。叔はまことに美しく、武勇ある人である。
解説
「叔于田」は、叔という人物の美しさと魅力をたたえる詩である。叔が狩りに出かけると、巷には人がいなくなったように感じられる。しかし詩はすぐに「岂无居人」と問い返す。本当に人がいないのではない。ただ、叔に比べられる人がいないのである。 三章は同じ形をとりながら、叔の行動を「田」「狩」「野」へと広げ、最後に「仁」「好」「武」という資質を添えていく。叔は単に容貌が美しいだけでなく、仁厚で、好ましく、勇ましい人物として描かれる。 この詩の面白さは、人物そのものよりも、その人物が不在になったときの空気を描く点にある。叔がいないだけで、巷の人々も酒の席も馬の姿も色あせて見える。素朴な誇張の中に、若々しい憧れと共同体の視線がよく表れている。
作者紹介
「鄭風・叔于田」は『詩経・国風』に収められた作者不詳の詩である。鄭風には、鄭の地に伝わった民間の生活感情や男女の情愛を歌う作品が多い。短い章句と反復によって、人物の魅力や人々のまなざしを生き生きと表す点に特色がある。「叔于田」は、一人の若者を明るく誇張して賛美する、国風らしい人物歌である。