詩経
郑风·东门之墠
佚名
东门之墠,茹藘在阪。
其室则迩,其人甚远。
东门之栗,有践家室。
岂不尔思?子不我即。
翻訳
東の門の外には平らな地があり、坂には茜草が生えている。あなたの家はこんなにも近いのに、あなた自身はとても遠くにいるように思われる。 東の門の外には栗の木があり、家々が並んでいる。どうしてあなたを思わずにいられようか。ただ、あなたが私に近づこうとしないのだ。
解説
『東門之墠』は、近くにいながら心が遠いという相思の痛みを歌った短い詩である。「其室則迩,其人甚遠」という一句が中心であり、住まいは近いのに、その人は遠いという矛盾が、詩全体の感情を支えている。遠い旅や山川の隔たりではなく、相手が近づいてくれないことが苦しみとなっている。 東門は、城邑の境界であり、人が出会い、別れ、外へ向かう場所である。門外の平地、坂の茜草、栗の木と家々は、どれも身近な風景である。しかし身近な風景があるからこそ、心の距離はいっそう強く感じられる。 「岂不尔思?子不我即」は、自分が思っていないのではない、相手が近づかないのだという静かな訴えである。激しい怨みではなく、はっきりとした寂しさがある。 この詩の魅力は、恋愛における非常に細やかな経験を的確に表している点にある。最も遠い距離は、道の長さではなく、相手が心を寄せようとしないことなのだ。
作者紹介
『詩経』の「国風」の多くは、周代各地に伝わった民歌で、作者は不明である。「鄭風」は、男女の恋、待つ心、すれ違い、親しさと疎遠さを描く作品が多く、素朴な言葉の中に細やかな感情が込められている。