詩経
王风·兔爰
佚名
有兔爰爰,雉离于罗。
我生之初,尚无为;我生之后,逢此百罹。
尚寐无吪。
有兔爰爰,雉离于罦。
我生之初,尚无造;我生之后,逢此百忧。
尚寐无觉。
有兔爰爰,雉离于罿。
我生之初,尚无庸;我生之后,逢此百凶。
尚寐无聪。
翻訳
野兎はゆったりと走っているのに、雉は網にかかっている。私が生まれたころには、まだこのような乱れはなかった。生まれた後には、数々の災いに遭うことになった。いっそ眠ったまま動かずにいたい。野兎はなお自由に走り、雉は罠にかかる。私が生まれたころには、まだこのような憂いはなかった。生まれた後には、多くの悲しみに遭った。いっそ眠ったまま目覚めたくない。野兎はなおのびやかで、雉はまた網に落ちる。私が生まれたころには、まだこのような苦役はなかった。生まれた後には、多くの凶事に遭った。いっそ眠ったまま何も聞きたくない。
解説
《兔爰》は、王風の中でもとくに憂患の深い作品である。冒頭では、自由に走る野兎と、網にかかった雉が対比される。同じ野にいながら、一方は自在であり、一方は捕らえられる。この対比は、乱れた世における人の運命の不公平さを映している。詩人は「我生之初」と繰り返し、かつてはまだこのような災いがなかったと回想する。しかし生まれた後には、百の災い、百の憂い、百の凶事に遭った。最後の「眠って動かず」「眠って覚めず」「眠って聞かず」は、現実から逃れたいほどの疲弊を示す。反復の中で、悲しみは静かに深まっていく。
作者紹介
「王風」は『詩経・国風』の一部で、周王畿およびその周辺の歌と関わるとされる。多くは作者不詳で、先秦期の民歌や礼楽の伝統が集成されたものと考えられる。王風には、別離、役、衰えた世の憂い、個人の感情を歌う作品が多い。言葉は簡素であるが、反復と日常のイメージによって深い余韻を生んでいる。