詩経
唐风·蟋蟀
佚名
蟋蟀在堂,岁聿其莫。今我不乐,日月其除。无已大康,职思其居。好乐无荒,良士瞿瞿。
蟋蟀在堂,岁聿其逝。今我不乐,日月其迈。无已大康,职思其外。好乐无荒,良士蹶蹶。
蟋蟀在堂,役车其休。今我不乐,日月其慆。无以大康,职思其忧。好乐无荒,良士休休。
翻訳
蟋蟀が堂に鳴き、年はまさに暮れようとしている。今楽しまずにいれば、日月は過ぎ去ってしまう。しかし安逸を極めてはならず、自らの居るべき場と職分を思わねばならない。楽しみを好んでも荒れることがない、それが良き士の慎みである。蟋蟀が堂に鳴き、歳月は去っていく。今楽しまずにいれば、日月は遠ざかってしまう。しかし過度に安逸であってはならず、外の務めを思わねばならない。楽しみを好んでも荒れない、それが良き士の励みである。蟋蟀が堂に鳴き、役車も休んでいる。今楽しまずにいれば、時は消えてしまう。しかし安逸に溺れてはならず、憂いを思わねばならない。楽しみを好んでも乱れない、それが良き士の落ち着きである。
解説
「蟋蟀」は、年の暮れにおける楽しみと節度を考える詩である。蟋蟀が堂に入って鳴くことは、秋冬の近づき、歳月の終わりを告げる音である。詩人は人生の短さを認め、「今楽しまなければ、日月は過ぎ去る」と言う。しかしこの詩は放縦へ向かわない。各章で「無已大康」と戒め、楽しみはよいが、安逸に溺れてはならないと語る。今を楽しむことと、職分や外の務め、将来の憂いを忘れないことが同時に求められる。ここにこの詩の深さがある。限りある時間の中で、良き士は喜びを知りつつも節度を失わない。
作者紹介
『詩経』の「風」は、周代各地の歌謡に由来するものが多く、個々の作者はほとんど伝わっていない。そのため、通常は「佚名」とされる。これらの詩は、民間の歌、礼俗、労働、恋愛、婚姻、怨刺、思慕、政治的感情などを伝えている。言葉は素朴でありながら、反復、リズム、イメージによって強く整えられている。作者名を持たないからこそ、そこには一人の文人ではなく、古代社会の広い集団的経験と感情の記憶が残されている。