詩経
唐风·杕杜
佚名
有杕之杜,其叶湑湑。独行踽踽,岂无他人?不如我同父。嗟行之人,胡不比焉?人无兄弟,胡不佽焉?
有杕之杜,其叶菁菁。独行睘睘,岂无他人?不如我同姓。嗟行之人,胡不比焉?人无兄弟,胡不佽焉?
翻訳
一本だけ立つ杜梨の木、その葉は豊かに茂っている。ひとりの人が、寂しげに歩いている。世に他人がいないわけではない。しかし同じ父を持つ兄弟には及ばない。ああ、道行く人よ、なぜ彼に寄り添わないのか。兄弟を持たぬ人を、なぜ助けてやらないのか。一本だけ立つ杜梨の木、その葉は青々と茂っている。ひとりの人が、孤独に歩いている。世に他人がいないわけではない。しかし同じ姓を持つ者には及ばない。ああ、道行く人よ、なぜ彼と親しくしないのか。兄弟を持たぬ人を、なぜ支えてやらないのか。
解説
『杕杜』は、一本だけ立つ杜梨の木を起興として、人の孤独と親族関係の重みを歌っている。木の葉は「湑湑」「菁菁」と豊かに茂っているが、「有杕」という語がその孤立を強調する。生命力に満ちた木がひとり立つ姿は、孤独に歩く人の姿と重ねられる。「他人がいないわけではない。しかし同じ父の兄弟には及ばない」「同じ姓の者には及ばない」という言葉には、宗法社会における血縁と同族の重要性が表れている。詩の後半は、道行く人に向かって、なぜ親しまず、なぜ助けないのかと問いかける。この問いは単なる嘆きではなく、人情の薄さへの批判でもある。全詩は短いが、孤立した木、ひとり歩く人、反復される問いによって、親族が離散し、助け合いが失われた痛みを深く伝えている。
作者紹介
『唐風』の詩は古唐の地域に由来する無名の歌である。『杕杜』は、古くから宗族の離散や骨肉の不和と関わる詩として読まれてきた。恋歌のような明るさはなく、また露骨な風刺でもないが、ひとり歩く人の孤独を通して、兄弟や同姓の親族が持つ支えの意味を浮かび上がらせている。反復される問いは素朴でありながら重く、『詩経』における比興と倫理感情の結びつきをよく示している。