詩経

有狐

Yǒu hú

佚名

Yì míng

Yǒu hú suí suí, zài bǐ Qí liáng.

Xīn zhī yōu yǐ, zhī zǐ wú cháng.

Yǒu hú suí suí, zài bǐ Qí lì.

Xīn zhī yōu yǐ, zhī zǐ wú dài.

Yǒu hú suí suí, zài bǐ Qí cè.

Xīn zhī yōu yǐ, zhī zǐ wú fú.


翻訳

一匹の狐がゆっくりと歩いている。あの淇水の橋のほとりに。 私の心は憂える。あの人には裳がない。 一匹の狐がゆっくりと歩いている。あの淇水の浅瀬に。 私の心は憂える。あの人には帯がない。 一匹の狐がゆっくりと歩いている。あの淇水の岸辺に。 私の心は憂える。あの人には衣がない。

解説

「有狐」は、意味をはっきりと言い切らない含みの多い詩である。各章は「有狐綏綏」から始まり、狐が淇水のほとりをゆっくり歩く姿を描く。狐は野性、孤独、周縁的な存在を感じさせる。しかもその場所は橋、浅瀬、岸辺であり、いずれも水際の不安定な場所である。 「心之憂矣,之子無裳/無帯/無服」という句が中心である。語り手は、ある人の衣服が整っていないことを憂えている。それは貧しさ、礼を失った状態、漂泊、あるいは世話する者の不在を暗示しているのかもしれない。詩は事情を説明せず、欠けた衣服によって生活の不完全さを示す。 「淇梁」「淇厲」「淇側」と場所が移り、「裳」「帯」「服」と欠落が重ねられていく。水辺の狐と、衣服を欠いた人の姿が響き合い、孤独で不安な気配が生まれる。「有狐」は、意味を言い尽くさないことで、かえって憂いの深さを感じさせる作品である。

作者紹介

「有狐」は『詩経・衛風』に属する作者不詳の作品である。衛風には淇水がしばしば現れ、水辺は記憶、移動、不安、離別を帯びた場所として描かれる。この詩では狐と衣服の欠落が主要な象徴となり、短い言葉の中に憂いと気遣いが込められている。